氷河期初期世代おばはんの日々うらうら

就職氷河期初期世代のおばさんが時事問題に思ったりすることや、日々のあれこれ

日本版DBSへの期待ー何故刑法は110年間改正されなかったのか

日本版DBSがようやく制度概要の報告書が作成され、2023年秋の臨時国会で法案提出予定になった。
中身は充分とは言えないが、第一発目としては「完璧」を目指して時間をかけてしまうよりも、まず法案を通して、骨子(子供を性被害から守る)を周知することが先決だと思っているので、個人的には秋の臨時国会での審議まで持って行き、表決に至ってほしいと思っている。
一番嫌なのが、「時間切れ」で後回し、となることだ。(国会あるある)


骨子案の中で残念に思ってしまうのは、やはり業種の範囲がまだ不十分なところと、痴漢・盗撮の「一部」しか該当案件にならないこと、そして何より「不起訴処分を含めない」ところだ。
某野球選手の件でもそうだが、性犯罪は不起訴になってしまうことが多い。
そしてそもそも、痴漢や盗撮は各都道府県ごとの迷惑防止条例違反、になるケースが多いので、そこで取りこぼしが出て来るところもあるだろう。


それでも、まずは「何もない」よりはいいし、塾などは任意になったが、「認定」された塾かどうか、で親は選ぶことが出来るようになるので、現状の無法地帯よりはまだマシだ。


何しろ、今年7月にやっと施工された改正刑法は、110年ぶりの改正だった。明治時代に作られた法律が、ずっとそのまま使われてきたのだ。
当時とは事情が違って当たり前のことだ。
それでも、明治から今まで、ずっと男性社会で、警察も司法も「男ばかり」だったからこそ、改正要望の声が届かなかったのだろう。
痴漢などは「犬に噛まれた」、と言われ、レイプであっても「レイプであった証明」を「被害者」がしなければいけなかった、という理不尽さ。
性被害に遭ったばかりの人が、性被害を与えた加害者側の性別の人達の中で戦い続けられるだろうか。
想像してもらいたい。
警察に行ってもそこにいるのは「加害者と同じ性」の男性。(しかも最終的には被害届は受理されない方が多かった。
そこでセカンドレイプのような質問(何を着ていたか、なんでそこにいたのか、抵抗した証拠はあるのか、等)を必死でかいくぐったとしても、裁判所から何から、「加害者と同じ性」の人間ばかりの中を、クリアしていかないといけないという、ゲームソフトだったら誰もやらないだろ、っていうくらいのハードモードだ。

 


・被害に遭っても、立証責任は被害者側


・被害届を出しても、「これ、受理しちゃって事件化すると名前が出ちゃうよ?」という脅し+それを乗り越えても結局何のかんのと言われて受理されない。被害届が受理されないと、性犯罪の件数としてもカウントしてもらえない。(しかもここに、処女、というものに価値を置く摩訶不思議な文化が残っているので、より複雑。)


・被害届が受理され、例え裁判沙汰になっても、「まぁ、命に別状はなかったんだし」と言うような偏見。


・それなのに、被害者側(多くは女性)にのみ「堕胎罪」がある。(例え暴行で妊娠した場合でも、堕胎罪は適応される)


・暴行を受けた時に、速やかに証拠の採取、検査、警察への通報、弁護士の手配等をワンストップで行うレイプセンターのようなものが充分ではない。
(体に残留物が残っていても、そういう「駆け込み」場所を知らなければ、とにかく汚れを落としたい、とシャワーを浴びてしまう事も多々あるが、そうすると体内、爪の間などの証拠がなくなる)
 男女共同参画局が「性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センター」を作ってはいるが、各都道府県に1か所。
しかも電話相談から始まるし、ワンストップ支援センターにつながる #8891 の番号はあまり知られていない。


性交同意年齢が驚異の「13歳」だったこと自体が、「立証」出来ない性暴力を広げてきてしまっていた。


・改正前の刑法では、被害者は「女」とされていたので、男性被害者が置き去りになっていた。(ジャニーズ事件はここにつながる。おそらくだが、ジャニー氏はそれが分かっていたので、何十年もの長きにわたって犯行を行えたのだろう)

 

 

私見だが、私はこの「110年前に作られた刑法」の中に、女性進出を阻んできた理由の一部が内在されているようにも感じた。
今回の改正、またDBSが認知された事によって、多少進歩していくかな、と思っているのだが、何が阻んでいたのか、というのが下記だ。
(ちなみにこの110年前に制定された刑法は、被害者=女性と規定しているので、ここでも女性と書かせてもらう)

 


1.性犯罪を立件させないこと(ハードルを上げておく)ことから、女性に対し、「言う事を聞かなければいつでも襲うぞ」という暗黙の暴力の存在を示しておく。

 

2.謎の「処女」信仰
さすがに昭和後期には実際に「処女としか結婚しません」という人は見かけなかったが(旧ついったで見かけるような処女厨を除く)、この「処女」という存在を残しておくことで、性犯罪を表面化させない。(=非処女だと発覚すると、あたかも女性側が悪いような状況を作っておけば、被害届を出さないだろうということ)

 

3.堕胎罪の存在、また産婦人科で中絶手術を行う際に「配偶者の同意」がないと出来ない、という状況から、「処女で結婚し、言われるがままに子を産む。中絶を決める権利は夫にある」となる。
このため、夫側は女に権力を持たせない(経済力を持たせない)ために、思うがままに妊娠出産を繰り返させることが可能になる。

 


4.性暴行に対するワンストップ・クライシスセンターを「作らない」
例えば、アメリカではワンストップ・クライシスセンターが1100か所以上あるが、周知されずにいる。
ワンストップ・クライシスセンターでどういった流れになるかは、既に1988年の映画「告発の行方にて、映画冒頭に、レイプされた女性(ジョディ・フォスター)が逃げ出したところから、センターに入り、証拠の採取、傷などの写真を撮る、怪我の治療、と処置が行われている間にセンターから直接弁護士(ケリー・マクギリス)に連絡が入り、担当弁護士になった事を被害者であるジョディに告げるシーンがある。
このように、医療措置、裁判に向けての証拠採取、そこから弁護士の手配まで全て行われるようになっている。

 

このようなセンターが「ない」ことで、被害者女性に知識がなければ証拠の採取も出来ないし、暴行の証明も出来ない(なのに立証責任は被害者にあった)状態を可能にしていた。
また、経済基盤を持たないことが多い女性が、個別に弁護士に依頼する事は難しく、「被害届も出せなければ、出せても結局負ける」構図を作られていた。


5.一番考えたくない、「性交同意年齢13歳」。
これが「何故13歳」だったか、というのは、様々な人が「おそらく13歳ならば全員初潮が来ている」と考えたのではないか、という説が濃厚だが、では何故「初潮が来ていること」と、「性交の同意が出来る」が関係してくるのか。
日本人はみんなロリコンなんだ!源氏物語を読め!という人もいるが、この110年前の刑法が出来た当時(明治時代)の一般的な初婚年齢は15歳前後だったとも言われている。
なのに、性交同意年齢は13歳。
これ以上はあまり考えたくないので、この法改正の審議中に立憲民主党、本多議員が思わず言ってしまった本音を参照しておこう。
「50歳近くの自分が14歳の子と性交したら、たとえ同意があっても捕まることになる。それはおかしい」→おかしくねーよ!!!!!!

 


6.(例外)この、110年前の刑法の被害者として、「男性」は含まれていない
それが「男たるもの被害者ではあらず」という精神だったのか、それともまだ明治時代にも残っていた男色文化が残っていたためだったのかは不明だ。
刑法の改正がもっと早い時期に行われていたら、ジャニーズ事務所があれだけ被害者を生み出すこともなかったかと思うと、忸怩たるものがある。

 

 

こうして書き連ねてみると、「何故、日本のフェミニズムは1歩進んで5歩下がる」ような状態だったり、同じ方向を向いているはずの女性同士でいさかいが起こってしまうかが見えて来る。

 

女性から経済力を奪い、家父長制、そして「男系男子」の存続を尊び、のような方向で進みたかったために作られた刑法だったが、110年のうちに当たり前だが世間が変わった。
そして、戦後、制度としては廃止された家父長制の残滓を残すために女性の力をスポイルし続けようとしていたのだろうが、旗色が変わったのは、バブル崩壊、氷河期突入、企業の弱体化、そして「既得権力を持っている者たちが見苦しくもその場に居続けようとした」ことから、働き手が足りなくなり、一般家庭で子供を産み育てることが可能なレベルの経済力を男一人で維持するのが難しくなったことなのかもしれない。

 

働き手が足りない=女性にも働いてもらおう。
日本人という子孫を残さねば=産んでもらわないと。


政府側は、それまでの女像から、これくらい虐げていても女は文句は言うだろうが、言う事は聞くだろうと思っていたのかもしれない。
しかし、既に世の中にはインターネットがあり、女子教育も色々阻まれながらも進んでいき、「あ、日本では稼げないや」とか、「日本では昇進は無理か」となった時に、サラっと海外に行く人達が増えた。
男性も、女性も。勿論海外からも人が入ってくる。

 

しかし、それは女性の中で「違う選択肢」を取った人を生み出した、という事でもある。そのために、「結婚している・してない」「子供がいる・いない」「稼げる仕事に就いてる・稼げない仕事に就いてる・仕事をしてない」など、女性の中で派閥を作る構造を生んでしまったのだ。


今の政府のおえらいさんたちが通訳を介してヘコヘコと外交している間に、語学力を身に着け、自ら海外に出ていくもの、また日本人以外と結婚して子供を持つ人も増えた。
これから子供を産み育てる人には、選択肢が沢山ある。

 

何となく、これがいかにも日本式の「さぁ、反逆の始まりだ」という感じもする。
デモやボイコット、内乱ではなく、「さらっと」というところがいかにも日本人ではないか。
そう、日本人は陰湿なんですよ。女もね。